よつつじ

夕焼けに落ち着く時間に

学生鞄を手に駅に降りる

夕陽は線路を越える陸橋の真ん中で

真っ直ぐに延びる線路に

橋の影をうしろにずらし

美しいよつつじを描いて

今日と明日に再会の約束を結んだ

むかしながらの駅長に

定期をみせて改札口を抜けると

むかしからの友人が

石段の真ん中あたりで

おかえり

と声をかけてくる

学生鞄の鈴は軽く跳ねて

ちりんと小さな音がした

百年経ったら戻ってくるね

と駅舎の松のそばで

再会の約束を結んだ

懐かしい声を聴いた気がして

後ろを振り返った

いつかの休日の

夕焼けにはまだほど遠い時間に

真っ直ぐに長い線路の陽炎を

陸橋の真ん中で眺めている

橋の影はぶれたままになっていて

待っていても

よつつじ駅はもう現われなかった

(よつつじ(四辻)より一部)

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振り返る景色は優しく、温かく、切なくて。

KotohaMatsuo
  • KotohaMatsuo
  • ことばの港はみえない港。
    日常のさまざまな風景に
    錨を降ろし
    船をやすめ
    柔らかな風を感じる
    穏やかなひととき

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