曼珠沙華

曼殊沙華が咲いている
蠟燭に火が灯る
稲穂の傍らのあかい畦道は
人間に理由のない停止を求め
真の人間となる
言葉を諳んじることができるかと問うていた
   はつ宮まいりから口を鎖して、
   ふたつまで言葉は出なかった。
  お寺のえんであそぶようになり、
   しぜんと赤いほんを諳んじた。
 むっつになってまなびはじめると、
諳んじていた言葉は消えてしまった。
でなかった言葉はつぎつぎとふえて、
 はたちになるころお寺によばれた。
 赤いほんにふれると口は震えたが、
 諳んじていた詞は消え落ちていた。
 もどれぬ風にふかれて心はすさび、
 ふたたび口を鎖して手を見つめた。
すべてをひきずり帰り道をさがした。
とおくからお寺の鐘とお宮の太鼓が、
 心を鎖してはならぬと震えていた。
      鐘がひとつ、太鼓がふたつ、心の奥で震えていた
      あかく、ながい道は
      決して人間に理由のない停止を求めない
      美しい葬列がまっすぐに畦道を帰って行った

             『曼殊沙華』より一部
             (詩集『ひとつのりんご』収録)

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