珈琲時計店

扉をあけた aketa
空気が進み 鈴の音が聴こえる 
カフェオレに? それとも、 カプチーノに?
(時をすすめられる)
ことばを選択し 硬貨をトレーに置いた oita
行いを ことばに置き換えた

新聞を手に取り totta
片隅に向かう  mukatta
マフラーとコートをゆっくりとはずし hazusita
壁に掛けられた ことばを唱える tonaeta
(時をとめて ゆっくりとお寛ぎください)
ことばを背中に ソファに深く腰掛けた kaketa
今日の新聞の一面には
まだ終わらない と書いてある 

(時を かえした)
珈琲の香りを横に
おとなのことばを 聴いていたころ
新聞はまだ 読めなかったけれど
世の中で起きていることは
空気の気配で理解していた

まだ 終わりたくない
(時を なくした)
こどもたちへ
一杯のあたたかなミルクを
それから先の
(時を ください)

カフェオレに? それとも、カプチーノに?
エスプレッソも
そろそろ選択できるようになった?

明日の新聞の一面には
何も書かれていなかった
時刻を合わせ直して naosita 
席を立っても tatta
空気の気配はなく 
珈琲の香りは消えていた

扉をあける aketa?
風が吹くとき* 
鈴の音はもう聴こえない

どこまでの行いを
ことばに置き換えたのだったか

この世界の詩は 
まだ生きているか

(初出;詩と思想 詩人集2024より改稿)
(*風が吹くとき When the Wind Blows  by Raymond Briggs )

KotohaMatsuo
  • KotohaMatsuo
  • ことばの港はみえない港。
    日常のさまざまな風景に
    錨を降ろし
    船をやすめ
    柔らかな風を感じる
    穏やかなひととき

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