まどかな人びとに結ばれて

詩誌 折々の No.66 2025年11月1日発行に柴田三吉さんの詩集『ひとつの夜とひとつの朝』の書評を綴っております。
~まどかな人びとに結ばれて~
巻頭詩「ひとつの夜とひとつの朝」は。
「夜がほどけ/朝が結ばれていく」
とはじまり、最終連は
「よろこびと哀しみを得て/ひとを生きた一日の終わりに/
また昼をほどき/夜を結んでいく」
でとじられる。ほどかれては結ばれるもの、あるいは結ばれてはほどかれるもの。
この詩集のなかで、そして柴田三吉さんのなかで結ばれているもの、結ぼうとしているものは。
詩のなかに託されている確かな言葉のなかに、くり返されている《かたち》を見つめてみた。
*
「まどかな闇が白みはじめ/一閃 まぶたを裂く光」
(「ひとつの夜とひとつの朝」)
「かつては机上に本を置き/まどかな月が/海の水を持ち上げるように/
眼は、噛みくだけないことばも/引き上げていたのだが」
(「怠惰」)
「かたい皮をむいて/白い筋もていねいに取り/まどかな果実を裸にする」
(「オレンジ」)
《まどか》
①まるくて欠けたところのないさま。②穏やかなさま。円満なさま。欠けたところのないさま。(大辞林第四版)
まどかな光に導かれて、なにげなくすれ違っている人びとも、世界のどこかに生きる人びとも、記憶のなかに生きる人びとも、柴田さんは傍らの人として抱き寄せている。
*(略)*
人は何によって、結ばれたり、ほどかれたりをくり返しているのだろうか。
「あれは卵について書いた詩だった/わたしの大好きな卵」
(「孵化」)
「定かでないものは/放っておくと/まるくなる」
(「こころのはじめは」)
「ぐるぐる歩きまわり/くるりと反転して引き返す」
(「毛糸玉」)
「ふたつのこころは/細いくびれでつながっているから」
(「Sandglass」)
まどかな愛にくるまれて、人は《こころ》と《ことば》を育み、ひとつの夜とひとつの朝を、死と誕生を、くり返している。
「しずかに育んできた愛/ことばを信じるこころ/
その奥処を ひとよ/まさぐってみなさいと」
(「パンデミア」)
「(ああ文字はこんなにも感じやすい)」
(「読む人」)
(『ひとつの夜とひとつの朝』 柴田三吉 2025年5月1日発行 ジャンクション・ハーベスト)