こだま
07/15/2023(土)
07/17/2023(月)
詩誌『折々の』No.59 2023年7月1日
詩作品「こだま」を収めております。
「こだま」に寄せて。
手を引かれて山に入っていました。
春には春を。夏には夏を。
秋には秋を。冬には冬を。
それぞれの季節を。
季節は巡ってくることを。
わたしたちは、そしてすべては、
求めずともすでに「恵みのなかに」ただ在ることを。
ひとに恵まれ、
しぜんに恵まれ、
すべてに恵まれていることを。
ともに歩んだ日々に感謝の気持ちを込めて。
『こだま』 こだまを探しに 受け継いだ山に入る 呼びかけてみても わずかに蠢く息吹の気配は 聞き蕩れるほどの聲を 未だ持ちあわせてはいない 手を引かれて山に入っていた この先のこだまを追いかけてはならぬと 釘をさされた 踏み固められた湿った落葉に 木漏れ陽の踊る煌めく誘いは これが問いへの答えではないのかと 惑うほどのその先の けもの道 それは答えようのない問いなのだと この山を何度往き来しただろうか いつかおなじように 答えようのない問いを抱いたものたちの 手を引いて受け継いだ山へと入ってゆく 頼りない枝先から芽吹いてきた 未だ柔らかな楤の芽 暗い地中から這い上がった 未だ柔らかな筍の皮 湿った落葉を掻き分け伸びてきた 未だ柔らかな蕨の茎 こだまを探しに かすかに蠢動する息吹のそれらと 己のなかにもうひとつの山を育て上げたとき もうひとりの己が静かに応えるだろう いつかもういちど 手を引かれて こだまを呼びに